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荒廃するアメリカ | 日本破局のシナリオ | 著作紹介トップ

荒廃するアメリカ

1982(昭和57)年9月20日 第1版・第1刷
1987(昭和62)年2月1日 第2版
発行:開発問題研究所
発売:(株)建設行政出版センター
著者:Pat Choate & Susan Walter著/米国州計画機関評議会編
翻訳:古賀 一成

※現在絶版
荒廃するアメリカ
本書は、私が建設省道路局で道路政策担当の課長補佐(当時34歳)のころ、「Time」誌に掲載された論文を眼にし、その原典(原題:America in ruins)をアメリカにもとめ、翻訳し、出版したものです。
今と同じく、公共投資のあり方が問われ、道路財源の争奪戦さなかの出版でした。公共投資を怠った当時のアメリカの悲劇とその処方箋を書いた本書は、大きな反響を呼びました。
本書の概要の紹介にかえて、私が初版で書いた「訳者あとがき」を掲載します。

【訳者あとがき】
最近、わが国においても多様な視点からのアメリカ論が盛んである。しかし、それはフロンティア・スピリッツのアメリカ、強いアメリカではなく、病めるアメリカ・弱いアメリカの視点に立つものがほとんどである。べトナム戦争後の価値観の混乱と権威の失墜。かつての自由と豊かさに支えられたエンドレスパッシブネス(限りなき寛容)の風潮とこれがもらしたミーイズム(自已中心主義)の蔓延、性風俗の頽廃等。
また、こうした社会現象だけでなく、国際政治や経済の分野でもアメリカの弱体化、地位の低下現象は著しい。「ゼロサム社会」論は、成長力を失ったアメリカの政治・経済・社会における諸問題に警鐘を鳴らしたものとみることができる。また、最近の日米貿易摩擦は一部とはいいなららも経済力、生産性の面で日米間の逆転現象が起こりつつあることを示している。
このように新たな視点でアメリカへ関心が高まりつつある中にあって、昭和五十六年春以降アメリカにおける社会資本の荒廃とそれをもたらした行財政の病理が、わが国でも数多く報道された。56年のタイム誌(4月27日号)の特集ほか「荒廃するアメリカ」という言葉 に集約しうるこれらの記事は、行政改革、財政再建、そしてその関連での公共投資のあり方が白熱した論議を呼んでいたわが国で、大きな波絞を巻き起こすこととなった。とくに、社会資本整備では超先進国と目されていたアメリカで、経済の再生を危うくするほどの社会資本の疲弊が進み、それが行財政の構造に一つの原因があるとの指摘は、一種の驚きをもって迎えられた。
これらの記事を目にされた読者も多いと思われるが、本書の指摘や警告を裏づける報道でもあるので、参考までに主なものを改めて紹介してみよう。

● 56年4月26日付読売新聞 「世界の論調」
―スペースシャトルもいいが、高速道路や鉄道が危ない!―
橋はグラグラ、鉄道は脱線、ハイウェイは穴だらけ ― アメリカ経済を支える基本的な公共施設は今や、ほとんどガタガタ。スペースシャトルの華やかなショーとは裏腹に、“強いアメリカ”の再生計画は、足元から揺らいでいる」。

● 56年5月23日付朝日新聞「天声人語」
立花隆氏は、この世界一の金融都市・世界一の情報都市一ニューヨーク一の未来に疑問を投げかける。“ニューヨークは、ネクロポリス(死者の都市)への過程の最終段階にすでに足を踏み入れているというべきだろう”と。たとえば道路。市内の道路には150万カ所の穴ぽこがある。現在の更新速度では更新し終わるのに百五十年かかる。関係者が設備更新のための投資を怠っているのは、そこに短絡的利益優先主義があるからだ、と立花氏は指摘する」。

●56年6月30日付東京新聞
「米ニューヨーク市のマンハッタンとブルックリンを結ぷブルックリン橋で28日夕、ケーブルが突然落下、橋の上で写真撮影をしていた日本人フリーカメラマンを直撃、頭ガイ骨骨折で重体。ブルックリン橋は1883年に造られた有名な橋の一つだが、一部のケーブルは橋の建設当初から100年近くも取り替えられないままといわれ、徹底的な修理には10年の歳月と1億ドルの資金が必要なため計画の実施は延び延びになっていた」。

● 56年7月5日付毎日新聞
「軍事優先経済に高価なツケ国民生活の安全も脅かす ― 軍事費の増大は財政を圧迫し、福祉や教育あるいは社会資本の予算にシワが寄る。とくに米国の場合、公共事業の削減が深刻な影響を及ぽしているという」

以上四編の記事は、いずれもアメリカの社会資本、とりわけ道路の劣化の現状をうかがわせる。史上最大の公共事業といわれたインターステイト・ハイウェイ ― 州際高速道路 ― を遂行した進取のアメリカの姿を思うとき、その様変わりは驚きというほかはない。
こうしたアメリカの現状をアメリカだけの特殊事情、対岸の火事と割り切ってよいだろうか。わが国が他山の石とすべき先進国病の病理をそこに見い出すことはできないだろうか。むろん、これら社会資本の荒廃が、アメリカ全土にあまねく及んでいるわけではないだろう。しかし、アメリカ東部地域を中心に生じているこうした事態は、われわれが教訓とすべき先進国病のまぎれもない一つの症例である。
本書「荒廃するアメリカ」(原題:America in Ruins)は、アメリカにおける基盤施設の劣化の現状と、その経済への悪影響とともに、まさにその原因ともなった行財政の病理を鋭く指摘したものである。
今わが国は、莫大な赤字国債と景気の低迷に伴う巨額の歳入欠陥等の多くのジレンマを抱えながら財政再建の正念場を迎えている。さらに高齢化社会、低成長時代というより厳しい条件の中で、先進国が抱える多くの矛盾、課題に、わが国も否応なしに直面していくこととなるだろう。こうしたわが国がおかれた状況を考えたとき、本書が示してくれる体験に裏づけられた反省と警告は、後に続くわが国にとってきわめて示唆に富むものである。たとえば、本書が指摘する短絡的利益優先主義ともいえる安易な財政配分、これに伴い生ずる社会資本等の投資的支出の低落傾向、そしてそのツケとして後の者が負う経済・社会の活力基盤の荒廃等は、社会資本整備という面では、足元にも及ばないわが国にとっては、より厳しい問題提起と受けとめるべきかも知れない。
また本書は、こうした隘路を打開するために「資本予算」制度の創設ほか、わが国にもそのまま適用できる多くの提言を行っている。行政改革が叫ばれているわが国にとって、こうした総合的な視野に立つ建設的な提言は大いに参考となろう。とりわけ、行政改革であれ、財政再建であれ、とかくその場しのぎに流れやすいわが国であるだけに、本書が持つ総合的で長期的な視野には学ぷところは多い。
われわれは、タイム誌の特集記事によって本書の存在を知り、わが国への教訓が得られるのではないかとの期待をこめて翻訳にとりかかった。今、まがりなりにもその仕事を終えてみて、その期待は十分かなえられたのではないかと感じている。
今般、開発問題研究所の御厚意により、日本語版が出版される運びとなったが、本書が各界各層の方々に広く読まれ、わが国における長期的で総合的な視野に立った行政のあり方、とくに公共投資のあり方について論議の端緒となれば望外の喜びである。

昭和57年9月 古賀 一成